はじめに
「いびきをかく」「日中眠い」という症状を、単なる習慣や疲れのせいにしていませんか?これらは睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)のサインである可能性があります。SASは放置すると高血圧・心房細動・脳卒中などの重篤な合併症を引き起こす、見逃してはいけない疾患です。この記事では、睡眠時無呼吸症候群の基本から症状・診断・合併症まで、医療従事者としての観察ポイントとともに解説します。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に繰り返し10秒以上の無呼吸または低呼吸が起きる疾患です。無呼吸や低呼吸が起きるたびに脳や体が覚醒し、睡眠が分断されます。その結果、十分な休息が取れず、日中の強い眠気や集中力低下などが生じます。
成人男性の約4%、成人女性の約2%が罹患しているとされ、日本でも多くの患者さんがいますが、未診断・未治療のまま過ごしている方が多いのが現状です。
分類
| 分類 | 特徴 | 割合 |
|---|---|---|
| 閉塞性SAS(OSA) | 上気道(のど・舌根部周囲)が物理的に閉塞することによる無呼吸。胸腹部の呼吸運動は続いている。 | 約90% |
| 中枢性SAS(CSA) | 脳からの呼吸指令が途絶えることによる無呼吸。心不全・脳卒中・オピオイド使用に合併することがある。 | 約10%(心不全・脳卒中に多い) |
一般的に「睡眠時無呼吸症候群」というと、閉塞性SAS(OSA)を指すことがほとんどです。
原因・リスク因子(OSA)
閉塞性SASの主な原因は、睡眠中に舌根や軟口蓋が沈下して上気道を塞いでしまうことです。以下のリスク因子がある方は注意が必要です。
- 肥満:首まわりの脂肪組織が気道を外側から圧迫します。BMI25以上の方に多く見られます。最も重要なリスク因子です。
- 小顎・後退した下顎(後退下顎):顎が小さいと舌の置き場がなく、気道が狭くなりやすいです。
- 鼻閉(慢性鼻炎・鼻中隔弯曲症):鼻づまりがあると口呼吸になり、気道が閉塞しやすくなります。
- 扁桃肥大・アデノイド増殖症:特に小児のOSAの主な原因です。
- 飲酒・睡眠薬:筋弛緩作用により、上気道の筋肉が緩んで閉塞しやすくなります。
- 加齢:上気道の筋肉のトーヌス(張力)が低下します。
- 男性:女性の2〜3倍の有病率。女性ホルモン(プロゲステロン)には上気道筋を安定させる作用があります。閉経後の女性は有病率が上昇します。
主な症状
SASの症状は夜間だけでなく、日中にも影響が出るのが特徴です。
夜間の症状
- 大きないびき:典型的な症状。特に間欠的(止まったり始まったりする)いびきが特徴的。
- 無呼吸(家族・同室者が気づく):寝ているときに呼吸が止まっていると指摘される。
- 頻繁な目覚め・中途覚醒:無呼吸のたびに一時的に覚醒します。
- 夜間頻尿:無呼吸による低酸素が心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の分泌を促し、夜間に尿量が増えます。
- 寝汗・体動(体のもがき)
日中・起床時の症状
- 強い眠気(過眠):最も重要な症状。会議中・食後・運転中にも眠ってしまうことがあります。
- 集中力・記憶力の低下
- 起床時の頭痛:夜間の低酸素・高CO2血症による頭痛。
- 口の渇き:口呼吸・無呼吸による影響。
- 倦怠感・活気の低下
重大な合併症
SASを放置すると、心血管系を中心とした重大な合併症が生じます。これがSASを「単なるいびき」と軽視してはいけない理由です。
- 高血圧(最多):SAS患者の約50%が高血圧を合併。夜間の繰り返す低酸素・覚醒が交感神経を活性化し、血圧を上昇させます。治療抵抗性高血圧の原因として最も多い疾患の一つです。
- 心房細動:SASは心房細動の独立したリスク因子です。アブレーション後の再発リスクも高めます。
- 心筋梗塞・冠動脈疾患:夜間の低酸素・血圧変動が心臓に負荷をかけます。
- 脳卒中(脳梗塞):SASがあると脳卒中リスクが2〜3倍上昇すると言われています。
- 2型糖尿病:インスリン抵抗性が増加します。
- 交通事故・労働災害リスクの上昇:日中の強い眠気による事故が問題となっています。職業ドライバーは特に注意が必要です。
診断
問診スクリーニング
- エプワース眠気尺度(ESS:Epworth Sleepiness Scale):日中の眠気の程度を点数化するツール。8種類の場面での眠くなりやすさを0〜3点で評価し、合計11点以上で過眠ありと判断します。
検査
- 簡易ポリグラフィー(在宅睡眠時無呼吸検査):自宅で装置をつけて睡眠中のいびき・呼吸・SpO2などを記録します。比較的簡単に実施できます。
- ポリソムノグラフィー(PSG):病院に入院して実施する精密検査。脳波・眼球運動・心電図・筋電図・呼吸・SpO2などを同時に記録します。確定診断や治療方針決定に用います。
重症度分類(AHI:無呼吸低呼吸指数)
AHIとは、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数を表す指標で、重症度の分類に使用されます。
| 重症度 | AHI(回/時間) |
|---|---|
| 軽症 | 5〜14回/時間 |
| 中等症 | 15〜29回/時間 |
| 重症 | 30回/時間以上(≧30) |
AHI5未満は正常範囲とされます。CPAP治療の保険適用はAHI≧20(または症状のあるAHI≧5)です。
看護師として押さえておきたいポイント
- 入院患者のいびき・無呼吸の観察:夜間巡回の際に患者さんのいびきや呼吸状態を観察します。無呼吸が疑われる場合は医師へ報告し、精査を検討します。
- 術後・麻酔後のSASリスク管理:全身麻酔・鎮静薬・オピオイドはSASを悪化させます。SAS既往のある患者さんの術後は特にSpO2・呼吸状態の監視を強化します。
- CPAP使用患者への指導・トラブル対応:CPAPの装着方法・マスクフィッティング・機器の洗浄方法などを患者さんに指導します。「使いにくい」という訴えがあれば対応します。
- 生活習慣改善の指導:減量・飲酒制限・睡眠薬の見直し・側臥位睡眠などの指導を行います。
- 合併症のモニタリング:高血圧・心房細動・血糖値の管理状況を把握します。
まとめ
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は睡眠中に10秒以上の無呼吸・低呼吸が繰り返す疾患
- 約90%が閉塞性SAS(OSA)・上気道の物理的閉塞が原因
- 主なリスク因子は肥満・小顎・飲酒・加齢・男性
- 夜間症状(いびき・無呼吸・夜間頻尿)と日中症状(強い眠気・集中力低下)が特徴
- 高血圧・心房細動・脳卒中などの重大な合併症を引き起こす
- AHIで重症度を評価(軽症5〜14・中等症15〜29・重症≧30)
- 看護師は術後のSASリスク管理・CPAP指導・生活習慣改善の支援が重要
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