はじめに
「結核は昔の病気」と思っていませんか?実は、結核は現代日本においても毎年1万人以上が新たに発病する、依然として重要な感染症です。特に医療従事者は患者さんと密接に関わるため、感染リスクが高く、正しい知識と感染対策を身につけることが不可欠です。この記事では、肺結核の基本から感染経路・症状・感染対策まで、新人医療従事者にもわかりやすく解説します。
肺結核とは
肺結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)による慢性の感染症です。結核菌は非常に強い菌で、乾燥にも強く、感染力が高いのが特徴です。肺に感染するものを肺結核と呼び、全結核の約85%を占めます。肺以外にもリンパ節・胸膜・骨・脳などに感染する「肺外結核」もあります。
- 病原体:結核菌(Mycobacterium tuberculosis)
- 慢性経過をたどる感染症(急性発症は少ない)
- 日本では2類感染症に分類される(感染症法)
- 高齢者・免疫低下者・社会的弱者に多い
感染経路(非常に重要)
医療従事者として、感染経路を正確に理解することは感染対策の基本です。
- 空気感染(飛沫核感染):結核の感染経路は「空気感染」です。患者さんが咳や会話をすると、結核菌を含む非常に小さな粒子(飛沫核、5μm以下)が空気中に漂います。この飛沫核を吸入することで感染します。
- 飛沫感染・接触感染はしない:インフルエンザのような飛沫感染や、触れることによる接触感染は起きません。ただし、空気感染であるため換気が非常に重要です。
空気感染であるため、同じ部屋にいるだけで感染する可能性があります。これが結核対策において「陰圧個室への隔離」と「N95マスクの着用」が必須である理由です。
初感染・潜伏結核・発病
結核菌に感染してから発病するまでの経過を理解することが重要です。
- 初感染:結核菌が体内(主に肺)に入り込んだ状態。多くの場合、免疫が菌を封じ込め、症状が出ません。
- 潜伏結核感染症(LTBI:Latent Tuberculosis Infection):菌を体内に保有しているが、発病していない状態。症状がなく、他者への感染力もありません。感染者の約90%はLTBIのまま生涯を過ごします。
- 発病:免疫が低下したとき(高齢・HIV感染・ステロイド長期使用・TNF阻害薬使用・糖尿病・栄養不良など)に、封じ込められていた菌が増殖し、発病します。感染者の生涯発病リスクは約10%です。
主な症状
結核の症状は緩やかに始まることが多く、見逃されることがあります。以下の症状が2週間以上続く場合は結核を疑うことが重要です。
- 2週間以上続く咳:最も重要な症状。湿性・乾性どちらも見られます。
- 血痰・喀血:進行した場合に見られます。血が混じった痰は要注意。
- 発熱:微熱から高熱まで。特に午後から夕方にかけての微熱が特徴的。
- 寝汗(夜間発汗):夜間に大量の汗をかきます。
- 体重減少・食欲不振:慢性的に進行する中で体重が減ります。
- 倦怠感・全身のだるさ
- 呼吸困難:進行した重症例で出現します。
診断
肺結核の診断には複数の検査を組み合わせて行います。
- 胸部X線・CT:上葉(特に右上葉)への浸潤影・空洞形成が特徴的。結核は上葉を好む点が他の肺炎との鑑別ポイントです。
- 喀痰検査(塗抹・培養・PCR):
- 塗抹検査(Ziehl-Neelsen染色):速く結果が出るが感度はやや低い。陽性なら感染性が高い。
- 培養検査:確定診断に必要だが結果が出るまで2〜8週かかる。
- PCR(核酸増幅法):迅速・高感度・高特異度の検査。
- インターフェロンγ遊離試験(IGRA):QFT(クォンティフェロン)・T-SPOTが代表的。過去の結核感染を調べる検査。BCG接種の影響を受けないため、ツベルクリン反応より特異度が高い。医療従事者の定期検査にも使用される。
- ツベルクリン反応:BCG接種を受けた人では偽陽性になるため、日本人への感染診断としての有用性は限られます。
感染対策(空気予防策)
結核の感染経路は「空気感染」であるため、空気予防策(エアボーン・プリコーション)が必要です。標準予防策に加えて実施します。
- N95マスクの着用(医療従事者):通常のサージカルマスクでは飛沫核を通してしまいます。医療従事者はN95マスク(微粒子用マスク)を必ず着用します。フィットチェック(密着性確認)が重要です。
- 陰圧個室への隔離:患者さんを陰圧(室内の気圧を低くして空気が廊下に漏れないようにした)個室に入室させます。1時間に6〜12回以上の換気が必要です。
- 患者はサージカルマスク着用:患者さんが移動する際はサージカルマスクを着用してもらいます。
- 確定診断まで対策を継続:結核が疑われる段階から空気感染対策を開始し、除外診断がつくまで継続します。
- 隔離解除の基準:喀痰塗抹3回連続陰性(8〜12時間ごとに採取)+ 臨床症状改善 + 適切な治療開始後2週間以上経過、が一般的な基準です。
届出義務
肺結核は感染症法上の2類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに(24時間以内に)保健所へ届け出る義務があります。
- 感染症法:2類感染症
- 診断後直ちに最寄りの保健所へ届け出る
- 接触者健診(患者の家族・職場・医療関係者など)も保健所が行う
看護師として押さえておきたいポイント
- N95マスクのフィットチェック:N95マスクは顔への密着が重要です。装着のたびにフィットチェック(ポジティブチェック・ネガティブチェック)を行い、隙間がないことを確認します。毎年フィットテストを受けることも重要です。
- 隔離解除の基準を知っておく:喀痰塗抹3回陰性・症状改善・治療開始2週間以上が基準です。基準を満たすまで個室管理を継続します。
- 服薬継続の重要性を患者に説明(DOTSの実施):治療の途中でやめると耐性菌ができてしまいます。DOTSとは医療従事者が目の前で服薬を確認する方法で、服薬中断を防ぐための重要な手段です。
- 接触者健診の必要性を説明:患者さんの家族・職場・学校などで濃厚接触のあった人には接触者健診が必要であることを説明し、保健所の指示に従うよう案内します。
- 患者の心理的サポート:長期入院・隔離による孤独感・社会的スティグマ(偏見)に悩む患者さんが多いです。プライバシーを守りながら精神的サポートを行いましょう。
まとめ
- 肺結核は結核菌(Mycobacterium tuberculosis)による慢性感染症・現代でも重要な疾患
- 感染経路は空気感染(飛沫核感染)のみ・接触感染・飛沫感染はしない
- 感染しても約90%はLTBI(潜伏感染)のまま・免疫低下時に発病リスクが高まる
- 主な症状は2週間以上続く咳・血痰・微熱・寝汗・体重減少
- 診断には胸部画像・喀痰検査(塗抹・培養・PCR)・IGRAを使用
- 感染対策は「空気予防策」:N95マスク・陰圧個室隔離が必須
- 感染症法2類感染症で診断後直ちに保健所へ届け出る義務あり
- 看護師はN95マスクの適切な着用・服薬継続支援(DOTS)・患者の心理的サポートが重要
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